Newsletter 2019/07 vol.23

共同研究を始めます!!

いよいよスタート!
6月は母乳中の細菌叢と健康度を評価するための基準を策定することを目標に、7月からアカデミアと共同研究を開始するために、助成金の申請を行い、資金計画を立て、研究計画を作っていました。今回の共同研究では、大学病院で出産したお母さんと赤ちゃんに協力を頂いて、母乳と赤ちゃんの糞便をサンプルとして提供頂きます。生後2日(初乳)、生後14日(移行乳)、生後1ヶ月(成乳)の3回を想定しています。赤ちゃんが生まれて、腸管が形成する過程を知ることができ、母乳が赤ちゃんの腸内細菌にどのような影響を与えているかを知る第一歩となると思うと、かなりワクワクします。

お母さんのライフログに悩む
今回の共同研究では母子の生体サンプルを採取し、データ解析するだけでなく、お母さんのライフログ、特に「気分」の変化をサンプリングしたいと考えています。特に、サンプルとして提供頂いた母乳を採取したときに、その母乳はお母さんにとって良好と思えたものか、そうでないと感じたものなのかを聞こうと思っています。授乳行為は動物の本能的行動であり、自分の状態を感じる感性がその質を決めているように思うからです。(データを取ると、そんな相関ないかもしれませんが、それがわかるのも大事なことだと思っています。)
また、出産後、病院から退院し、自宅で子育てが始まり、初めてのことだらけで必死な時期の「気分」の変化も簡単なアンケートで情報として、お母さんに提供して欲しいと考えています。データを収集したい人はあれもこれも欲しいと思いがちですが、子育てが始まってほんと必死なお母さんにそんなお願いは到底できそうにないので、必要最小限、知りたい情報のみを提供してもらうために、どうするか、すごく悩みます。

研究デザインの決定の難しさ
直接的に細菌という観点で、母乳の中の細菌と赤ちゃんの腸内に棲む細菌との相関を調べ、お母さんのライフログの情報を掛け合わせるということは一見、スマートな気がするのですが、それが正しいアプローチなのかと、他に考えておいた方が良いことはないかと、グルグル頭の中が回っています。だから、改めて栄養に関する書物や腸内細菌に関するレポートなどを読み、何か追加でデータを集めた方が良いものは何かと考えていました。まだ結論は出ていませんが、現時点では赤ちゃんの腸内細菌の食餌になる母乳中のヒトミルクオリゴ糖(HMO)に関するデータを取ろうかと考えています。

第2回日本母乳バンクカンファレンスに参加して
研究計画を固めていく過程で、前述の通り他に何のデータを収集すべきかと考えていたときに、今年の日本母乳バンクカンファレンスの時期とも重なり、ちょうど今年のテーマは赤ちゃんの腸内細菌で、ヒトミルクオリゴ糖に関する発表も多くあり、非常に勉強になりました。
昨年のカンファレンスは低体重児に人工乳を与えると、壊死性腸炎(NEC)に罹患するリスクが高く、人乳(ドナーミルク)を活用する方が良く、母乳バンクの役割が求められているという内容でした。
今年は少し発展し、低体重児がドナーミルクを使い、お母さんからの母乳をもらって体重が増え、生活に支障がないレベルまで成長し、早い時期に退院するかというテーマに取り組んでいる米国のテキサス小児病院の医師が発表されていました。その中で、赤ちゃんの腸内細菌の機能を活発にするために、HMOの作用がポイントであると考えていると報告がありました。まだ研究途上であるとのことでしたが。
米国では早産でも早期に母子が退院する理由は、お母さんのマタニティリーブの期間が12週という制限があり、長く病院に入院していられない事情があるとのことで、ちょっと厳しい現実を感じました。
また米国ではNECの発症率が高く、その治療費および万が一障害が残った場合のその後の費用の負担が大きいため、NECの発症率を下げる取り組みが行われており、研究が進んでいるようです。
米国のドナーミルクは母乳が提供されたあと、低温殺菌処理し、3−5名のドナーミルクをブレンドして、使うそうです。そしてドナーミルクは病院だけでなく、自宅でも利用できる仕組みがあり、保険が適用されると説明されました。
医療ではなく、保育という観点で会場からの質問に対して、保育園で母乳を持ち込もうとすると「冷凍」してくるようにと言われるが、医学的には常温の方が細菌は増えないので「冷蔵」でもいいのではと医師が説明した時は、会場はなるほどという空気になりました。

更なる疑問
今年は自分なりに疑問を持ち帰ることができたことが成果です。大きな謎は、低体重児が人工乳を飲んだときにNECの罹患リスクが上がり、人乳だとそのリスクが低いということですが、赤ちゃんの腸もしくは腸内細菌が乳の成分がヒト由来なのか、ヒト以外のものと区別しているのか?どんなメカニズムで反応しているのかが、不思議でたまりません。自分の知識と頭脳ではわからないので、わかる方に教えて下さい。
ひとまずはできることから頑張ります!